村澤 一晃
ワークショップスタイルの
宮崎椅子製作所の原点に
(文:宮崎椅子製作所 開発スタッフの談話を編集)
一緒につくる意義、意味、成果。
宮崎椅子製作所は、2019年に創業50周年を迎えましたが、宮崎椅子製作所がオリジナルデザインの製品をつくるようになったのは2000年からのこと。それまでは下請け、OEM生産が中心でしたが、オリジナルデザインの製品をつくりたいと考えていたとき、縁あって出会ったのが村澤一晃さんでした。イタリアの建築設計事務所で経験を積み、帰国して家具専門のデザイナーとして独立したばかりの頃。家具、インテリアのメディアでも「元気な若手デザイナー」と呼ばれていた頃でした。
宮崎椅子製作所を初めて訪ねてくれたとき、村澤さんが最初にしたことは工場を見学すること。工場オタクを自称する村澤さんは、ものづくりの現場に重きを置きます。デザインとは、開発メンバーとの対話やつくる現場から紡ぎだすもの、というのが持論です。
そして、村澤さんと始めたワークショップスタイルのデザイン開発のやり方を他のデザイナーとも行うようになりました。原寸試作を目の前に置いて、手と目で感じたことをデザイナーと開発スタッフで交わし、より良いもの探っていくやり方です。
開発を始めてから最初に製品が売れるまで、数年かかりました。そういうスケジュールだったわけではなく、余裕があったわけでもありません。未だ無いものを生み出すために、ただ必死で夢中なだけ。そんなオリジナル製品づくりに、村澤さんは全力で向き合ってくれました。
村澤さんと長期にわたる共同開発のなかで比較的初期に発表した椅子「pepe」は、宮崎椅子製作所のベストセラーでありロングライフな製品として現在も人気を博しているまさに代表作であり、さまざまなバリエーションを生み出すことができました。
合理的に発想し、ダイナミックに進化させ、緻密に仕上げる。
工場をつぶさに観察して、何をつくったらいいかを考える村澤さんのデザイン案には、合理性、必然性、無理のなさをいつも感じました。
しかし、それはスタート時の印象です。一次試作ができあがると、それを大胆に削り込んだり形を変えたり、試作を重ねる中でダイナミックにデザインが進化していくことを毎回感じます。
課題を工場に投げかけてくれたり、工場から返したアイデアをうまく取り入れてくれるのも村澤さんの特徴です。試作を重ねるたび、新しいことへのチャレンジが積み上がっていきます。
試作を重ね製品化できそうだという目処が立つと、こんどは緻密になります。寸法の1mm、2mmの違い。座の奥行き寸法や傾斜角度。
背の当たり具合。途中まで大胆に形を変えてきた試作が、ゴールが見えてくるとそこまでやるのかというほど細やかになるのです。
その緻密さを共に経験したおかげで、パーツの継ぎ方が1か所改善されるだけで椅子全体の佇まいが変わることや、ミリの違いは椅子を使ってくれるお客様にもちゃんと伝わること、そういうことを村澤さんとのワークショップで実感できました。
言葉や数字に表せないところにこそ、モノの違いがある。
使いやすくて座りやすい。村澤さんと開発した製品に感じるのは、上質なスタンダードです。スタンダードというのは、いちばん難しいと思います。多くの人に好かれ、喜んでもらえるもの。普通のものであって普通でない。言葉や数値では説明しきれない何かが備わってこそ、新しいスタンダードと呼ばれるものになるのではないかと思います。
長い時間をかけてワークショップを重ねて、その椅子が生まれるまでのすべてに関わって、付き合いの中で村澤さんのデザインの特徴も理解するようになって。そこまでわかったつもりになっていて、あるとき完成した製品の最初のロット生産で、オイル仕上げの工程を担当したときのことです。村澤さんらしい優しい丸みを持った形、パーツのすり合わせ、面の研磨、糸面の取り方、すべて知っていると思っていたのに、オイルをすり込んで木の色と木目が浮かび上がったとき、椅子の雰囲気が一気に変わりました。こうなるのか、と驚き、椅子づくりの楽しさと奥深さを改めて感じました。
今までにないものを今までの技術でつくり出すことを発想したり、そうかと思うと今までの技術ではできない課題も笑顔で突きつけてくれる。「やってみようよ!」と、朗らかに言われたら、もう一歩踏み出すしかないと思ってしまいます。頼りがいのあるアニキのようなパートナーです。