Kai Kristiansen
カイ・クリスチャンセン
木工のマイスター、
奇をてらうことなく、
(文:宮崎椅子製作所 開発スタッフの談話を編集)
生涯現役、生涯第一線、生涯基本。
デンマークのデザイナー、カイ・クリスチャンセンさんとの交流は、カイさんがデザインした椅子「No.42」と、ソファ「Paper Knifeシリーズ」の復刻生産を宮崎椅子製作所が行うことになった2008年から始まりました。そして、製品チェックのために工場を初めて訪ねてくれたのは2010年。当時、カイさんは80歳を超えていました。
年齢にも驚きましたが、活力に満ちて朗らかな人柄がとても印象的でした。工場に着くと、あいさつもそこそこに、早速試作のチェックです。目と手で丁寧に慎重に確かめていることが伝わってきます。指先が縫製のちょっとした膨らみを感じると、「縫製した人をここに呼んで」と、製作者と直接対話することを求めます。デンマークのデザイナーの多くがそうであるように、カイさんはデザイナーでありクラフトマンでもあります。つくり手同士の対話をとても大切にします。
無理なことはしません。しかし、細かいところまで妥協は一切ありません。ディテールにこだわりながら、製作する上で合理化につながることがあれば簡略化や無駄の排除を追求します。
基本的なことを徹底して積み上げる、ということだと思うのですが、その結果としてでき上がるものは美しい木の椅子。美しいということは正しいということでもある、というのはカイさんとのやり取りで浮かんできた考えです。
飛行機で椅子を持ってやって来る神さま。
最初の復刻プロジェクトの後にもカイさんとの交流は続き、改良復刻、新製品の開発を継続して行い、何度も工場へ来てもらいました。
自分で削り出したアームの原寸見本や、椅子を手荷物として飛行機に乗せて、宮崎椅子製作所まで持ってきてくれたこともありました。
試作のチェックは相変わらず慎重で丁寧。各部の寸法や材料の厚みにもこだわり、コスト意識も高く、無駄をなくすことを徹底します。無理のない造形ですが、微妙なカーブや手で触れる箇所の形状は独特です。基本の積み上げといいましたが、ただの四角いだけのパーツは一つもありません。そうやって美しいオーセンティックな椅子が生まれることにマイスターの技を感じます。
手描きの図面も、とても美しいものでした。あくまで実用的な原寸図なのに、美しい絵のようです。
現物を目の前にしてつくり手同士で話し合い、当たり前のことを言い、美しい図を描き、より簡単な加工方法とコストをさげることを追求し、そして美しい椅子が生まれる。目の前にいるカイさんは、厳しくて穏やか。優しい笑顔のベテランデザイナーです。でも、椅子の神さまとやりとりしているのかと思ってしまうこともありました。
何のための美しさか、何のためのデザインか。
カイさんとつくる椅子を車に例えるなら、上質なセダンのようです。高級・高価を目指すのでなく、長く愛着を持って使うことができる上質さが、生活の道具としての椅子に備わるのです。上質さには美しさも必然的に備わるのだと思いました。使う人に好かれるために、椅子には美しさが必要で、その美しさをカイさんは自分の手で削り出して考える。
たかがナントカされどナントカ、という言い方がありますが、カイさんとつくる椅子はまさにそれです。たかが椅子、されど椅子。暮らしと気持ちを豊かにしてくれる、生活道具としての椅子です。
生涯第一線で活躍する現役のカイさんと、基本をしっかり積み上げてどこにも存在しない美しい椅子をつくり出す。カイさんとのワークショップの成果を、宮崎椅子製作所のラインナップに並べることができました。