古田 恵介
物語のある
必然を探って
(文:宮崎椅子製作所 宮崎勝弘の談話を編集)
行動力とストレートな意志でデザインする。
古田さんは、共にデザイン開発に取り組んだ社外デザイナーの中で一番若いデザイナーです。出会ったのは宮崎椅子製作所が出展していた家具見本市の会場でした。古田さんもデザイン作品を出展していて、そこで知り合いました。
古田さんは、言葉を多く並べるタイプではありませんが、関心や興味があることに素直に向かっていったり、自分の考えや思いをまっすぐに言葉にするデザイナーだと感じました。
そして行動力があります。淡路島を拠点に活動されていますが、古田さんに会うのは、宮崎椅子製作所の工場のほかに、東京やミラノの展示会場でした。学校を卒業したあとは、国内外のさまざまなデザイン展に精力的に出展していたようです。
古田さんは学校卒業後に住宅会社に勤務した経験があるようですが、デザイン事務所に勤めてスキルを学んで独立したのでなく、デザイナーの仕事は独学というか独自に身につけたのではないでしょうか。何かに染まっている印象がないのです。こうつくりたい、こうデザインしたいという考えや思いが、素直にストレートに伝わってきます。
だから「KAKI no ISU」の話を持ちかけられたとき、すんなりと試作にとりかかることができました。
「KAKI no ISU」は、「柿の椅子」。
「KAKI no ISU」は、古田さんから依頼された特注家具でした。とある新築住宅の案件で、建築家が施主から敷地の柿の木はそのまま残したいという希望を聞き、古田さんがその家の椅子デザインを担当したのです。だから「KAKI no ISU」のKAKIは、柿の木のことです。
デザインするにあたり古田さんは、歴史ある住宅地に建てられるその家に日本家屋の原風景的な景色を感じ、どこか懐かしく、それでいて新しい椅子にしたかった、というデザイン物語を「KAKI no ISU」に込めました。大きく湾曲した背フレームが特徴的で、ぽったりとした愛嬌のあるデザインです。座が浮いているように見えるのも古田さんの発想によるもの。座面はゆったり座れるサイズでありながら、設置スペースをとらない椅子です。独特な形状の背は、柿のタネをイメージした造形です。
柿の木の家のために古田さんがデザインした特注品でしたが、これを宮崎椅子製作所のラインアップに加えさせてもらいました。誕生から10年以上が経ちました。また古田さんと共同でデザイン開発する機会が訪れることを楽しみにしています。